2023年6月7日水曜日

ヨナス・アウミラー ピアノ・リサイタル報告



2023年6月2日、横浜市・藤原洋記念ホールで行われた、ヨナス・アウミラーさんが出演されたコンサートを聴いてきました。ヨナス・アウミラーさんは第8回仙台国際音楽コンクール・ピアノ部門に出場し、第2位を受賞されたドイツ出身のピアニストです。アウミラーさんは1998年生まれ、仙台での受賞の前年、デトモルト・ブラームスピアノコンクールで優勝されています。その他も多数のコンクールに挑戦し、数々の受賞を得てこられました。現在はクリーブランド音楽院でセルゲイ・ババヤン先生に師事されています。


ヨナス・アウミラー ピアノ・リサイタル

【日時】2023年6月2日(金)18時30分 開演
 
【会場】慶應義塾日吉キャンパス協生館藤原洋記念ホール 
                   (横浜市北区)
  
【出演者】ヨナス・アウミラー (ピアノ)
     
【演奏曲目】
スクリャービン/幻想曲 ロ短調 作品28
リスト=アウミラー/交響詩 第4番「オルフェウス」 S.98(初演)
同/交響詩 第3番「前奏曲」S.97(初演)
ブラームス/ピアノ・ソナタ第3番ヘ短調 作品5
アンコール
 バッハ=ケンプ=アウミラー/目を覚ませと呼ぶ声が聞こえ
 アウミラー/優しさ
 
          
当日、関東地方は沖縄付近を進む台風に起因する前線によって、あちらこちら豪雨に見舞われました。そんな中、私も仕事が終わった際、主催のカワイ横浜さんに開催の有無を電話してみると、コンサートは時間通り行うとの回答でした。遅れ気味の電車を乗り継いて慶應大学内にある藤原洋記念ホールに着きましたら、開演を待つ人の長蛇の列が見えてびっくりしました。大雨で萎えていた気持ちが演奏への期待に一気に変化しました。

この日のプログラムは前半が仙台の予選でも演奏されたスクリャービンの幻想曲とアウミラーさん自身が編曲したリストの交響詩2曲、後半はブラームスのピアノソナタ第3番でした。開演前に読んだプログラムにはアウミラーさんのコメントが掲載されており、現在もっとも情熱を注いでいるのはピアノ演奏とオーケストラ作品をピアノ用に編曲することと記されていました。今回はその中からリストの前奏曲2曲が初演されるとのことで、どんな演奏になるのか楽しみになりました。

最初のスクリャービンはロマンティックな曲想の作品でした。先月、ルゥオ・ジャチンさんのリサイタルで聴いたスクリャービンのソナタ2曲は神秘的な感じでしたが、今回の作品の印象は全く違います。作曲家の作風の変遷を感じました。演奏はかっちりした構成の中にロマン的な香りが漂う雰囲気で、コンサートの最初からアウミラーさんの世界に引き込まれました。続くリストの前奏曲2曲は圧倒的な演奏でした。「すさまじい」という言葉がぴったりくる迫力、パワフルな推進力、力強い骨太のタッチが連続して、2曲弾き終わった瞬間、聴衆席のあちらこちらから「すごい」という声が聞こえてきました。続くブラームスのソナタも同様に力強さと確かな構成感で弾き切りました。時折、匂い立つようなロマン的な表現もあり、第5楽章を情熱的に弾き終えた瞬間、会場からは大きな拍手が起こりました。3回のカーテンコールに応えて、バッハのカンタータ(ケンプ=アウミラー編曲)とご自身の作品「優しさ」がアンコールで演奏されました。アンコールでは端正で真面目なドイツの音楽家というイメージそのままの演奏を聴かせてくれました。圧倒的な技術と力強い推進力、そして時折見せるさりげないロマン的な表現が組み合わされた演奏を十分に楽しめたというのが、全体的な感想です。ときどき、激しすぎるかなという表現もありましたが、それも若さでしょう。更に歳を重ねたら「真摯」という言葉がぴったり来る、深い感動を呼ぶピアニストになることが間違いなく予感できる一夜でした。次回の来日時には、ぜひ仙台のコンクールファンにも素晴らしい演奏をふたたび聴かせてほしいと思います。



広報宣伝サポートボランティア  岡


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