2016年6月21日火曜日

公式ピアノ3社の調律師の皆様にお話しをうかがいました!

 

第6回仙台国際音楽コンクールもピアノ部門のファイナルを残すのみとなり、いよいよ大詰めに近づいてきました。

ピアノ部門の予選が終了した翌日の6月14日、コンクールでの公式ピアノとして採用されているメーカーである、カワイ、ヤマハ、スタインウェイ&サンズの調律師の皆さんにお話しをうかがう機会を頂き、そのレポートです。質問した筆者も興味が尽きないお話しが続いて、あっという間の30分でした。読者の皆様も楽しんで頂ければ幸いに思います。

【日時】2016年6月14日(火)

【場所】日立システムズホール仙台、交流ホール

【参加いただいた調律師の皆様】
 坂上 直幹さん(株式会社河合楽器製作所)
 鈴木 俊郎さん(株式会社ヤマハミュージックジャパン)
 真鍋 要さん(スタインウェイ・ジャパン株式会社)


今回の仙台国際音楽コンクールで使用されているピアノはどのようなピアノでしょうか?

坂上: 普段、コンクールやコンサートで使用されているピアノです。過去には浜松のコンクールなど、幾つかのコンクールでも使用されたピアノです。

鈴木: 前回のショパンコンクールで使用したピアノです。コンクールにどのピアノを出すかについては、企画サイド、開発サイド、営業サイド、そして技術サイドと会社全体で検討するのです。今回は、少し時間をかけて弾きこまれたピアノで、質感重視という方針になりました。

真鍋 特に何かの時に使用したという特別のピアノではありません。スタインウェイの場合、特に良いものを選ぶということはなく、通常に生産されている中で、その時そこにあった楽器を出させていただいております。仙台のコンクールだからと言って、特別なものを持ってきた訳ではありません。製造されてから3年の楽器なのですが、使用機会が少なかったので、楽器を鳴らすために多くの人に弾いてもらおうと5月のラ・フォル・ジュルネで使いました。ところが今年私が担当していたホールでピアノのリサイタルが少なかったものですから、困ったなと思いまして・・・、でも仙台で多くの人に弾いてもらえれば、ファイナルには十分鳴ってくるだろうと思い、使用しています。


今回、ホールの特徴や仙台の気候も含めて、このコンクールの調律で心掛けていることはございますか?

坂上 直幹さん(株式会社河合楽器製作所)

坂上: 会場に音が響き、広がるようなイメージを持って調律をさせて頂きました。やはりこの時期、湿度が高くなったりするとメカニックの状況も変化してきますので、その当りも配慮しながら調整を心掛けました。

鈴木: 正直、仙台のコンクールだからと言いまして特別なことはありません。でも、オーケストラも入りますし、かつそんなに大きなホールでもないということもあるということを考慮して、先程も申し上げた通り大音量というよりは質感重視でピアノを選んでいます。カワイさんもおっしゃったように、この時期、湿度が高い時にどうやってピアノの状態をキープしていこうかということには注意が必要で、本当に一日一日変わってしまいます。まあ、そこがピアノなのですが、それに気を付けながら、できるだけ同じ状態をキープしていくというのが我々の使命なので、そこに一番神経を使っています。

真鍋: コンクールの調律で心掛けていることですか。やはりコンテスタントに迷惑がかからないような楽器を提供したいというのが、自分の意識の中にあります。湿度の話が出ましたけれども、今朝はなぜかピッチが少し高くなっていました。昨日一日中、あれだけ雨が降りましたからね。それが楽器に影響したのかと思い、他のメーカーさんの音を聴いたのですが、そうでもない様子で、なぜ私のところだけと今朝は少し困りましたね。そして朝の調律の時間に、ピッチを下げるかどうしようかと迷いましたが、とりあえず今日は様子を見ることにしました。リハーサルが全部終わって、ピアノのピッチを見たら、もとに戻っていて安心しました。もしそのままでしたら、オケにも迷惑をかけてしまいますから。普段、ピアノのアクション(運動機能)にまで湿気が影響を及ぼすということはないのですが、響板関係(ピアノの心臓部といわれている板)が湿度で変化したのかもしれません。今までずっとやっているのですが、初めてのケースでした。このコンクール期間中に梅雨入りしたのは今回が初めてでしょうか。


コンクールでは多くの出演者が同じピアノを弾きます。コンクールとコンサートでの調律の違いはありますか?

坂上: コンクールでは多くの人が同じピアノを弾かれるので音色も変化してきますし、叩かれることで更に変化してきます。調律の方もその当りを注意しながら調整しております。

鈴木 俊郎さん(株式会社ヤマハミュージックジャパン)

鈴木: 基本的にコンクールだから、コンサートだから変えるということはしないですね。ただやはり、コンクールではいろいろな方がいろいろな弾き方で弾きますから、ある程度スタンダードにしておかないと。特別な調整ということまではしないですね。
コンサートの場合はピアニストの好みというものがどうしても出てきますし、一対一というやりとりになりますから、そこで要望を聴いて、その好みに合わせた調整をすることになります。でも、コンクールでもコンサートでもそうですが、ベースとなるものがしっかりしてないといけません。お化粧しても、すぐに剥がれてしまいます。やはり基本的には、スタンダードなところをしっかり押さえて調整するというというところは同じです。

真鍋: 私も皆さんと同じで、やはりスタインウェイのマニュアルに沿った調整基準というものがありますから、それに則って行っています。鈴木さんが言われたように、やはりコンサートは一対一でやりますよね。だからある程度、今後に影響しない程度の要望は聞くようにはしています。極端な要望は、はねつけます(笑)。はい。


このコンクールでは、予選はソロでの演奏、セミファイナル以降はコンチェルトが課題となっています。ソロとコンチェルトの際の調律の違いはありますか?

坂上: コンチェルトではオーケストラの音量があります。それがピアノに乗ってしまわないよう、ピアノの性能を引き出すような形で調整します。それがソロの時と違う点ですね。

鈴木: 基本的には変わりませんが、コンチェルトの際はオケに負けないというところが一つのポイントになります。でも、音量だけあればいいかというとそうではありません。その裏にどういうものを付け加えるかという所が、やはり大事です。ソロはソロで、もう全部の音が聞こえてきてしまいます。そこでは質感というか、裏にどういう陰影をつけるかというところが違ってきます。コンチェルトの際も、やはり音量プラス、後についてくる何かですね。それを大事にやらなければと思っています。

真鍋 要さん(スタインウェイ・ジャパン株式会社)

真鍋: 今回はコンクールですから、あえてソロだから、コンチェルトだからというのはありません。これがコンサートだと意味合いが違ってくるものですから、その場合は変えることもあります。


今回のセミファイナルはオールベートーヴェンプログラムです。作曲家によって、調律を変えることはありますか?

坂上: 特にそういう変化はさせず、普段はスタンダードな形で調整します。コンサートの場合、要望があれば対応しますが、今回のようなオケ合わせという場合は、ノーマルな形でやります。

鈴木: 作曲家によってということは基本的にはないですね。ソロの場合、それよりもピアニストがどういう弾き方をするかとか、その曲に対してどう弾くかということで、微調整をしていくことがありますが、基本的に作曲家によって調整を変えるということはありません。

真鍋: 私はありますよ。古典派、ロマン派はだいたい同じような傾向で、近現代は全く別な傾向で調律をします。作曲家までというと違うかもしれませんが、具体的には音符の配列がちがいますよね。ですから、フランスもの、ドビュッシーやラヴェルでは音をちょっと固めにしてみたりします。多分皆さんもそうだと思うのですが、自分で感じる音楽というものがありますよね。それにふさわしい音作りというか、調律での音作りというか、それを私はやっています。


調律師さんは音楽のエンジニアといえる存在ですが、音楽のことも理解していなければできないお仕事だと思います。ご自身は楽器を演奏されるなど音楽をやっておられますか?

坂上: 学生時代だけですけれど、ブラスバンドに入っていました。そこで金管楽器のトロンボーンとチューバを経験しました。ピアノは特に・・・・。

鈴木: 私は高度経済成長の時代に育った人間で、親からピアノをやるかと言われてウンと言ったらしく、ピアノを始めましたが、小学校の3年で止めてしまいました。でも音楽は好きでしたから、ポピュラーにのめり込んだり、ブラスバンドでサクソフォーンを吹いたりしました。高校時代はロックでしたね。大学に行ってからはマンドリンなど、ずっと音楽には携わっていました。

真鍋: 私も鈴木さんと同じで、小さい頃親からピアノを習わされまして、高校くらいまでは続けましたね。でも嫌々ですよ。高校に行ってからは、やはりブラスバンドでトロンボーンを吹いていました。それでまあ、この道に進むからということで、もう一回ピアノを始めようかと思ったのですが、調律師というのはピアノを自由に変えることができるじゃないですか。それで若気の至りといいますか。まあ、私がピアノを弾けるようになったら、私のピアノになってしまう。お客様のピアノではなくなってしまうのではないかと思い、もうピアノを弾くことは諦めようという生意気なことを考えました。ところが今になって思いますと、やっぱりピアノは弾けていた方が良かったかなと思いますね(笑)。



これまで、色々なコンクールを経験されたと思います。仙台のコンクールの良い点と改良した方がよいという点がありましたらお聞かせ下さい。

坂上: 改良する点というのは、私なりには見つかりません。このコンクールは運営の方もしっかりしていて、ボランティアスタッフも対応がすごく敏感に対応して頂いて、ホームステイもあります。そういうことがきちんとされているので、他にはない魅力的なコンクールだと思いますね。

鈴木: 改良といったら言い過ぎかもしれませんが、我々ピアノに携わっているスタッフはプロジェクトというと大袈裟かもしれませんが、企画、製造、営業、そして技術、設計のスタッフが一緒になり、一つのものを作っている気持ちでいます。コンクールの現場は他社さんのピアノも含めていろいろと聴けて、フィードバックできる機会でもあると思います。コンクールだから制約があるのかもしれませんが、調律師に限定せず会場に出入りできると、今後、良いピアノを作っていくためにもありがたいです。

真鍋: 私はコンクールというと仙台のコンクールしか知らないので、他との比較はできないのですが、でも皆さんボランティアの方、一所懸命やってらっしゃいますね。先程も出ましたが、ホームステイもありますしね。何より良いのは、予選で惜しくも次に進めなかった方が、その後も仙台にいらっしゃって、コンサートに出演するという企画がありますね。彼らも予選を通らなかったというのは残念だと思うでしょうが、一方で演奏できる場が提供されるというのは、素晴らしいことだと思いますね。彼らはまだ若いですから、人生の何らかになるのではないか思いますので、その様な企画はとても素晴らしいと思います。


これからセミファイナル、ファイナルが残っています。仙台の聴衆に自社のピアノのこの様な特徴を聴いてほしい、ご自身のこの様なサウンドへのこだわりを聴いてほしいという点をお聞かせ下さい。

坂上: これが一番難しい質問だなと(笑)。力強い音と、立体感があって、よく歌うピアノの響きを堪能していただければと思っております。

鈴木: それで全てじゃないですか(笑)!今言われたことは本当にそうだと思いますが、ヤマハとしての特徴を言うと、やっぱり繊細さが一番ではないかという自負があります。だから大きい音量も大切ですが、ピアニシモの立ち上がりを聴いてほしいですね。そこを少し比べて頂けると良いかなと。

真鍋: 私もこれは本当に難しい質問だなと思うのですが、スタインウェイの音はこうですよということは言えるかもしれませんが、それは決して調律師が作った音ではなく、あくまでスタインウェイという、天才的な設計者達が作った楽器の良さを壊さずに、なるべく活かす方向でということは、何も今回のコンクールに限らず、いつも自分に戒めながらやっています。ですので、何と言ったらいいでしょうか、スタインウェイのパワーと煌めきですかね。そういった音を聴いて帰って頂ければと思います。
 

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今回、筆者は世界の第一線で活躍する調律師の方と初めてお話しさせて頂くということで、事前に資料を下調べしました。その際感じた3社の技術者のイメージは、ピアノという深遠な世界を真摯に、そしてひたすらに追求するカワイ、抜群のチームワークで人の心にしみ込む音の醸成を目指すヤマハ、自社の楽器に全面的な信頼を置き、その潜在能力を100%引き出すことに奉仕するスタインウェイというイメージでした。今回3人の皆さんのお話しをうかがって、そのイメージは間違っていなかったという印象を受けました。 ピアノという楽器そのものに対しても知識が深まり、今週末のファイナルがますます楽しみになった30分でした。

オーケストラ合わせ(出場者とオーケストラのリハーサル)のための調律に入る前の貴重な時間に、貴重なお話しを聞かせていただきました3人の皆様、本当にありがとうございました。


広報宣伝サポートボランティア   岡

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