2016年2月14日日曜日

パスカル・ヴェロによる指揮者講習会




2月14日(日)、東京エレクトロンホール宮城で行われた、仙台フィル常任指揮者パスカル・ヴェロさんによる指揮の講習会を聴講してきました。午前10時から午後6時までの長丁場、合計20人の受講生が交代で、日比野裕幸教授(元仙台フィルクラリネット奏者)が率いる宮城教育大学交響楽団を中心とするオーケストラを指揮した後、ヴェロさんに指導を受けるという講習会でした。この課題曲はビゼーの「アルルの女」組曲。フランス語通訳はレクチャーでも大活躍の菊地万希子さん、いつものようにヴェロさんとの息もぴったりでした。

仙台フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者
パスカル・ヴェロによる指揮者大解剖!?
 ~指揮者とオーケストラを裏の裏まで・・・~


講師:パスカル・ヴェロ
通訳:菊池万希子(声楽家)
オーケストラ:宮城教育大学交響楽団を主体とした特別オーケストラ

主催:宮城教育大学日比野研究室、宮城県文化振興財団
    宮城教育大学交響楽団、宮城県
共催:仙台フィルハーモニー管弦楽団

 
筆者は昨年に続き、2回目の聴講でした。ヴェロさんは指揮の上達のための訓練法から実際の指揮のテクニックまで、受講生のレベルに合わせて熱心に解説したり、実際に自ら振ったり、時には寸劇を演じたりして、「指揮」を通じて音楽を伝えることはどういう事かを様々な面から教えてくれました。ヴェロさんが大好きな日本のことわざは「過ぎたるは及ばざるがごとし」で、音楽を作る上で過度な表現をすることを好まないそうですが、今日の受講生は逆に表現不足を指摘されていた方がほとんどでした。では私のメモを下に、筆者が興味を持った内容を箇条書きで記してみます。
 
右手と左手の独立が大切です。オーケストラに対して、右手は拍を伝え、左手は表現やフレーズを伝えるのです。フレーズは、小節をまたいで最初から最後まで左手で的確に表現しなければなりません。
 
音楽の部分部分に対して、自分なりの物語をイメージして、それを体で表現してオーケストラに伝えるのです。特に「ハーモニーはストーリー」と言えます。顔の表現も含め、「嬉しい」や「淋しい」といった音楽の表情を伝えることが大事です。私が指揮を最初に学んだ時、先生はあれもダメ、これもダメといろいろ制限をかけてきましたが、バーンスタインに出会って、音楽表現はもっと自由にしてよいということを知りました。
 
頭を下げてはいけません。特にピアノやピアニシモの際、体が前傾になりがちです。背筋を伸ばして頭から腰にかけて体を真っすぐにして、骨盤に入れる感じです。頭を固定して、オーケストラの奥までしっかり見ましょう。体を前傾にすると、前から2~3列目の奏者しか見ずに指揮をすることになり、オーケストラとコンタクトが取れないのです。また、体を真っすぐにして指揮をすると、2時間振り続けても腰に負担がかからないのです。
 
指揮台で移動して、体をいろいろな方向に向けるのは望ましくありません。体を開いて、正面に立ち、常にオーケストラ全体を把握し、その音を聴くようにして下さい。必要な楽器群には、体を向けるのではなく、顔や視線で合図を送るのです。
 
(ひとつのメロディーが終わる前に次のフレーズの楽器に注意が向いてしまう受講生に)メロディーやフレーズが終わるまできちんと奏でている楽器(群)に注意を向け続けて下さい。自分の奥さんを途中でほおっておいて、他の女性のところに行ってはいけません。
 
でも、頭の中は次のフレーズの事を先取りしておかなければなりません。指揮者は出てきた音にリアクションするのではダメなのです。指揮者は交通整理の警官ではありません。自分が出したい音を自ら引き出すことが必要です。
 
小節を意識してダウンビート(1拍目)にこだわる人が多すぎます。フレーズのつながりの方が大切であり、ダウンビートを振り下ろす事に拘泥してはならないのです。
 
指揮者は自らの動作でメッセージを伝えるのです。だから曲のイメージを動作で表現できなければなりません。そのために何よりも脱力(リラックス)が必要です。体が硬直していると音楽まで硬直してしまいます。
   
譜面台の高さにも注意しましょう。無理ない姿勢でスコアをめくれるように。
  
 
今回の講習会に参加して、「拍を取ること」は指揮者の仕事の一部に過ぎないことを知りました。指揮者は全奏者を俯瞰して、楽譜に書かれているメッセージを体全体で表現してオーケストラに伝えることが仕事なのですね。また、ヴェロさんが特に強調していたことは姿勢の大切さです。多くの受講生が頭を下げて音楽に没入してしるように見えて、オーケストラにはメッセージが伝わっていない状態に陥っているのを目にしました。改めてヴェロさんの指揮する姿を見ていると、色々な動きをしても体の重心は決して崩れず、しっかりオーケストラに向き合って、的確な身体表現でオーケストラに自分の表現したいことを伝えているのが分かりました。
 
手が脱力し、左右の手が独立して、的確にオーケストラに表現を指示するために、ヴェロさんは2つのエクササイズを紹介してくれました。
 
①片手をまっすぐ上にあげて緊張させ、指、手首、肘、腕全体の順番で順次脱力させ(だらんとさせ)、下ろしていきます。二人一組になって、それぞれの段階で相手の指や腕を揺らして、相手がちゃんと脱力しているかをチェックします。
 
②手を胸の前に出して右手を胸から振り下ろすように前後にゆっくりと回します。左手は逆に胸から振り上げるように前後にゆっくり回します。左右の手を逆回転で回す要領です。
(これはとても難しいです。私もやってみましたが、最初はできても直ぐに左手が硬直して訳が分からなくなります。ヴェロさんはこのエクササイズで左右逆回転をしながら、左手の速度を段々と落とすという芸当をみせてくれました(驚き!)。このエクササイズは脳トレにもなるそうです)
 
まる一日の長丁場をこなした宮城教育大学交響楽団の皆様、本当にお疲れ様でした。そして、来日の度に仙台の音楽文化向上につながるイベントを、疲れも見せずに精力的にこなしてくれるヴェロさんに心から感謝したいと思います。
 
講習会が終わって定禅寺通りを歩いていると、 他人の歩いている姿が妙に気になりました。前傾姿勢で歩いている人の何んと多いことか。そして、ビルのガラスに写っている自分もアヒルのようになっているのに気付いて、あわてて背筋を伸ばしました。
 
 
 
広報宣伝サポートボランティア   岡
 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿