跳躍する旋律と揺れ動く調性。
天才プロコフィエフの音楽の秘密!
2月7日(日)、エル・パーク仙台6階ギャラリーホールにて仙台フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者、パスカル・ヴェロさんによる定期演奏会に向けたレクチャーがあり、参加してきました。
このレクチャーは、約1週間後に行われる仙台フィル定期演奏会をより楽しめるように、ヴェロさんが毎回、様々な切り口でプログラムの内容や演奏曲目の説明をしていただいているものです。前回はガーシュウィンの時代のアメリカの音楽を歴史的背景も含めて、ピアノの実演を交えながら解説頂きました。今回は次回定演のプログラムを題材に、CDによる演奏を聴きながらプロコフィエフの音楽的特徴を浮き彫りにするという、このレクチャーシリーズの原点に戻ったスタイルでの2時間でした。今回もフランス語通訳は菊地万希子さん、ヴェロさんとの息もぴったりでこのシリーズにとって欠かせない人です。
今回、仙台フィル第298回定期演奏会のプログラムは『ヴェロのセレクションで味わう愛の物語「ロミオとジュリエット」』。以前、ヴェロさんが振った定演でプロコフィエフの交響曲第5番が取り上げられた時、「ロミオとジュリエット」のリクエストが上がっていましたが、今回はその希望が叶えられることとなり、当日を楽しみにしている聴衆も多いかと思います。この日はプロコフィエフの音楽の特徴、そしてプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」とそれに至る歴史という2部構成でのレクチャーでした。筆者が長年不思議に感じていた、他のどんな作曲家にも似ていないプロコフィエフの音楽の独自性の謎が、今回ヴェロさんによって氷解されたように思います。CMやフィギュアスケートの音楽に採用されてポピュラーになった「ロミオとジュリエット」の音楽がヴェロさんと仙台フィルにより、どの様に料理されるか本当に楽しみです。
レクチャーの最初はヴェロさんの奥様の話から始まりました。奥様もプロコフィエフの音楽が大好きで、ヴェロさんに「プロコフィエフの音楽がなぜこんなに素晴らしいのか説明して」と迫って、ヴェロさんを困らせているようです。また、ヴェロさんは大学院でマスターコースを専攻する時、最初はプロコフィエフの音楽でテーマを決めようとしていました。それは彼の音楽がオリジナリティーにあふれて特別なものと思っていたからだそうです。では以下、ヴェロさんが説明してくれたプロコフィエフの独自性について、説明された内容をまとめてみます。
1.プロコフィエフの音楽の特徴
・プロコフィエフは子供でまだ楽譜の書き方を知る前から作曲家になりたいという気持ちを抱いていました。お母さんがピアノを弾く方で、家でラフマニノフにショパンなどを聴かせていたそうです。彼な生まれながらにして、作曲家であるという意識を持っていた作曲家ではなかったかと思います。若い時の手紙から、プロコフィエフは常にオリジナリティを追求していて、誰かの模倣、真似と言われることを非常に嫌がっていたことが分かります。すでに世の中にある平凡なものがものすごく嫌いだったようです。彼にとって、オリジナリティーを生み出すということがとても重要だったのです。
・プロコフィエフの音楽を理解するために重要なキーワードがあります。旋律(メロディー)の流れという面から見たconjoint(順次進行、自然な流れ)とdisjoint(分離、跳躍した進行)という相対する言葉、ハーモニーの面から見たconsonance(音の協和)と dissonance(音の不協和)という相対する言葉。プロコフィエフの音楽の中で書かれている旋律の跳躍の幅はすごく高低差があります。そして、一つの旋律の中にオクターブ程離れた音が沢山出てきます。また、1曲の中で転調も頻繁に行われます。それはモーツァルトからチャイコフスキーにいたる時代で行われていた移動しやすく違和感のない近親調への転調ではなく、それまでのルールを無視するかように様々な調へ滑り落ちるように移っていくものです。これがプロコフィエフの音楽を特徴づけているといえます。
・オーケストレーションにおいては、ショスタコーヴィチのそれのように比較的シンプルではあるのですが、ピッコロ、バスクラリネット、コントラバス、チューバ、ジロフォン、ピアノなどに必要以上にすごく高い音からすごく低い音までを求めているのが特徴的です。
2.プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」とそれに至る歴史
・「ロミオとジュリエット」の話自体は非常に古い歴史を持っています。いがみ合っている家族の子供同士が恋に落ちるというテーマは紀元前、アウグストゥスの時代に生きたオイディウスという詩人の時代からあり、バーンスタインの「ウェストサイドストーリー」など、今に至るまで書き続けられています。
・プロコフィエフがバレエ音楽として書いた「ロミオとジュリエット」は52曲から構成されています。当初はモスクワで52曲の音楽を使って、バレエを上演する予定でしたが、曲が多すぎてダンサーたちにこんな作品は踊れないと言われ、成功を収めることが出来ませんでした。不協和音が多く、変な音楽と思われたようです。そこで、プロコフィエフはその音楽を組曲という形に書き換えました。組曲は第1、第2、第3まであるのですが、その3つに論理的に曲が配分されている訳ではないように思います。
今では、第1と第2から抜粋してプログラムを組まれることが多いのですが、何を選択するかは指揮者が自分の中で構築して決めていることが多いです。
・ではまず色々な「ロミオとジュリエット」の作品をCDを使って、聴き比べてみましょう。
チャイコフスキー/冒頭は中世の雰囲気があります。物語の進行を予想させる悲壮感が漂っていますが、不協和音はありません。ロマンチックです。
ベルリオーズ/2人の独唱、合唱、オーケストラという構成です。有無を言わせない進行は凄さを感じさせます。はじめから両家が喧嘩している感じが分かります。フーガが運命的なものを表す効果として使われています。その後、古代ローマを想わせるような合唱が聴こえ、ユニゾンから段々声部が分かれていきます。
グノー/いかにも悲劇が始まるという感じが大袈裟で、あまり好きではありません。グノーの真似だけはやめましょう(笑)。あまりにアカデミックで重すぎます。
バーンスタイン(ウエストサイドストーリー)/ラテンな感じとジャズな感じが混ざっていて、バーンスタインのオリジナリティーを感じさせます。
・では、いよいよプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」をCDで聴いていただきます。プロコフィエフのそれが、特別なものであることを実感されるでしょう。
第2組曲第1曲「モンタギュー家とキャピロット家」(定演1曲目)
・冒頭、音を消さずに順次重ね合わせる不協和音によって、居心地の悪い感じを出し、その後不協和音のフォルテシモ、そして最弱音による協和音と続きます。
・不協和音をいかにちゃんと指揮するかということは指揮者にとって、とても重要なことです。
・その後、管楽器で不協和音が奏でられた後、弦楽器が入ってくるところですぐにクレッシェンドしてしまうとつまらない。いかに我慢するかが聴きどころと言えます。
・その後の旋律(有名なフレーズ)も音の跳躍がすごく、オクターブも沢山出てきます。その中に順次進行が混ざり、そして不協和音があったり、ものすごく高いところに音を持っていったりします。演奏するのはとても難しいです。不協和音が普通な感じに聴こえては面白くありません。そこで心地悪い感じを聴衆に与えられないと不協和音の意味がなくなってしまいます。
・次のフレーズの調を滑っていくような音が面白いです。調性をちょっと下げてはまた戻るという所が頻繁もあります。プロコフィエフの細かい芸を味わってください。
第2組曲第2曲 少女ジュリエット(定演2曲目)
・この曲にも、調性が少し移動しては、また戻るという芸が繰り返されています。
第1組曲第4曲 フォーク・ダンス(定演3曲目)
・この曲はプロコフィエフのオリジナリティーを感じさせる要素はあまりなく、構成としてダンスを楽しむために入れられているような感じです。アイルランドの民謡をイメージさせます。ダンサーにとっては踊りやすいでしょう。でも転調は沢山しており、プロコフィエフの転調自慢という印象を受けます。
まとめです。音楽には旋律があり、調性(ハーモニー)があり、そしてリズムがあります。プロコフィエフの音楽の特徴としては、旋律ではすごく跳躍するものが多く、調性では、少し動くような転調が上げられます。その転調により聴き心地の悪いような音が含まれてます。リズムについては特筆すべき特徴はありません。今回の定演では2つの組曲の中から9曲を抜粋して演奏します。
普通、多くの指揮者は曲を選択する時にティボルトの戦いの音楽を最後にすることが多いです。それだと曲が盛り上がるので、コンサートが終わったなという印象をあたえることができます。私はそれでは単純のように思えるので、最後はお墓の場面での曲をえらびました。しーんとして、何もなくなったという感じで終わります。ジュリエットが仮死状態で倒れているのに気付かないロメオが絶望して死に、それを知ったジュリエットも自死します。二人が死にゆくところをプロコフィエフがどういう音楽でまとめているのかというところを注目してほしいと思います。
レクチャーの最後は第2組曲第7曲「ジュリエットの墓の前のロメオ」(定演9曲目、終曲)のCDを聴いて、締めくくられました。最後のピッコロの高い音が継続されるところが特徴的で聴きどころ。音と音との間に大きな距離があることにより、空間性や浮遊感が描き出されるそうです。
質問コーナーでは、プロコフィエフが独自性を獲得する上で影響を与えた作曲家がいたのかどうかをヴェロさんに聞いてみました。ヴェロさんの考えでは、彼に影響を与えた作曲家はおらず、彼一人で比類のない独自性のある音楽を作り上げたとの回答でした。プロコフィエフは本当の天才だったのですね。
今回の定演のプログラムは
プロコフィエフ/古典交響曲
ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番
プロコフィエフ/バレエ音楽「ロミオとジュリエット」より
・最初の「古典交響曲」はプロコフィエフ若いころの作品。ハイドン、モーツァルトをお手本にしたような曲だそうです。プロコフィエフがピアノなしで作曲した曲なので、不協和音もほとんどなく、聴きやすい曲とのことです。
・そして、ショスタコーヴィチのソロはスヴェトリン・ルセフさんです!コンクールファンにとっても、必修科目の定期演奏会ですよ!
「行ってみよう」と思った方はすぐ連絡を!
仙台フィル☎ 022-225-3934
仙台フィル公式サイト
では週末、ご一緒に跳躍する旋律とゆれ動く調性を楽しみましょう!
広報宣伝サポートボランティア 岡




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