一生に何度も出会えないようなコンサートがある!
8月1日、仙台生まれ、盛岡育ちのピアニスト、小山実稚恵さんのデビュー30年を記念したコンサートが日立システムズホール仙台(青年文化センター)で行われ、聴いてきました。
日立システムズ「希望の響き」シリーズ
小山実稚恵 30周年記念コンサート
指揮:大野和士
ピアノ:小山実稚恵
仙台フィルハーモニー管弦楽団
ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調
ドビュッシー/「海 -管弦楽のための3つの交響的素描」
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲2番 ハ短調 op.18
ラヴェル/ボレロ
今回の指揮は東京藝大で小山さんの同期生だった大野和士さん。ヨーロッパで広く活躍する大野さんの指揮を生で聴くのは今回が初めてだったので、その面からも今回のコンサートはとても楽しみでした。この日のプログラムは小山さんソロによるラヴェルとラフマニノフのコンチェルトに加え、ドビュッシーの「海」とラヴェルの「ボレロ」という大変贅沢なものでした。
昼の間は小山さんが自ら企画した、こどもたちのためのイベント「ボレロ」にも出演された小山さん。その後、休みもほとんどなしにコンチェルト2曲をこなした小山さんのスタミナは底知れぬものを感じました。最初のコンチェルト、ラベルのピアノ協奏曲が鞭の一撃で始まった後、私は「あれ?このコンチェルト、こんなに簡単だったのか?」という印象を受けました。そう思わせるほど、小山さんは技巧的な面を超越して楽しそうに弾いていました。それは激しいパッセージも例外でなく、余裕さえ感じさせる弾きぶりが、リズム感に敏感な大野さんの指揮に完全に溶け込んで、聴いている私達も楽しませてくれました。
続く「海」では、大野さんのリズム感と大きさを感じさせる音楽観が、スピーディーなテンポを豊かにふくらませて、心地よく聴くことができました。大野さんが旋律をうたう時、おおらかな中に独特な透明感と浮遊感を感じさせます。変化に富んだ海の煌めきを的確に刻々とえがきつつ、第3楽章のクライマックスも興奮の中に収め、大きな感動をもたらしてくれました。
コンチェルト2曲目はラフマニノフの第2番。こちらでも小山さんはラヴェル同様、技巧的な難しさを全くと言っていいほど感じさせず、詩情を込めた抑制された情熱が段々と熱を帯び、最後は圧倒的な力が聴衆を非日常の世界に連れ去りました。もちろん最後の一音まで小山さんのピアノは「大袈裟」という言葉とは無縁で、表現も動作も知的な範囲に収まっているのが、かえって感動を呼ぶのです。俊敏な大野さんのタクトとの息もピッタリに、曲が終了した時の会場の拍手は出演者の熱演を上回るボルテージを持って、カーテンコールのたびに繰り返されました。小山さんは弾き終ると、いつもの様に一瞬で普通の人に戻って、恥ずかしそうに笑いながら聴衆にお辞儀をしていました。そのギャップに毎回魅せられてしまいます。
ラフマニノフのコンチェルトまででも大満足だったコンサートに、この日は更にラヴェルの「ボレロ」もプレゼントされました。全編が一つのクレッシェンドのような難曲ですが、この日昼もコンサートをこなした仙台フィルの皆さんは、さぞかししんどいだろうなという余計なお世話的な心配も全く無用な、各奏者の個性が活きた演奏でした。ここでも大野さんはスケールの大きな盛り上がりと物凄いフィナーレでこのコンサートを締め括ってくれました。この日の時間を共有できた聴衆の感想を聴く度に、このコンサートに行かなかった人は、これから大きな後悔を味わう事になるでしょう。
この日のプログラムには小山さんの30周年を記念する小冊子が折り込まれており、評論家の皆さんの小山さんに寄せる想いや30周年の公演の聴きどころに加え、岩手日報社の黒田論説委員による東日本大震災後、小山さんが東北で積み上げた支援のための演奏活動に関する記事が掲載されていました。その数は合計31回に上り、被災地の人々を励まし続けてきたことが分かります。今回の子供達へプレゼントされたイベントも含め、小山さんに心より感謝の意を示したいと思います。
小山さんのライフワークの一つである、足かけ12年に渡る「音の旅」シリーズもあと2年半の5公演を残すのみとなりました。これからはバッハのゴールドベルク変奏曲やベートーヴェンの後期ピアノソナタ群など、一段と精神性の深い、濃い曲が控えています。今日の小山さんの演奏を聴いて、残りの5回は一度たりとも聴き逃してはならないと決意を新たにしました。
広報宣伝サポートボランティア 岡

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