2014年8月18日月曜日

仙台バッハゼミナール研究発表会 Vol.15


7月31日(木)、ピアニストの田原さえさんが主催する仙台バッハゼミナール「平均律クラヴィーア曲集」研究発表会Vol.15(於:カワイミュージックショップ仙台4階ホール)を受講してきました。仙台バッハゼミナールの14名の会員の皆さんは、バッハ平均律クラヴィーア曲集の解釈と演奏研究により作品への理解を深めることを目的として、定期的に研究会を積み重ね、その成果を発表会で公開されています。今回で15回目の発表会、第Ⅱ巻の発表会としては今回が6回目でした。

まずは歓迎演奏から。今回は仙台を拠点にして活躍するヴァイオリニスト、浅野裕里香さんがゲストとして招かれ、田原さんの伴奏で「G線上のアリア」を披露してくれました。

曲の解説の前に田原さんからスピーチがありました。

今回から趣向を変えて、Ⅰ巻に較べて難しく馴染みのないⅡ巻を急いで進めず、じっくり1曲ずつ解説した後、休憩をはさんでⅠ巻の関連のある曲をエピソードも織り交ぜて復習するスタイルにしていきます。その結果を皆様が自宅で試していただき、その後の研究会にご意見をいただくという双方向型の皆でバッハを楽しみながら勉強していければと思います。

さっそく曲目別の解説スタートです。まずは、第Ⅱ巻第13番嬰へ長調からです。永沼さんの演奏に続き、「演奏してみての感想」が発表されました。

この調(嬰へ長調)だからこそ綺麗なのは弾いていてよくわかるのですが、一度外してしまうともとに戻れない怖さがあって、通して弾くのは大変でした。


続いて、石田さんによる曲目解説です。今回も、解説のコーナーでは説明後、その部分を実演して理解するというスタイルで進行しました。第13番のプレリュードはフランス序曲風といわれる付点のリズムと分散和音が特徴の曲。後のソナタ形式のような形で書かれ、最後の部分に主題の再現部があることが説明されました。実際聴くと、躍動感にあふれた変化の多い聴きごたえのある曲でした。フーガは3声で真正応答(全ての主題が最初に出てくる主題をそのまま模倣するフーガ)のタイプとのことでした。そして、主題についてシューレンバーグの「バッハの鍵盤音楽」には「ガヴォット的」と記されています。ガヴォットとは中位のテンポの舞曲のことで、主題が小節の半ばかアウフタクト(楽曲が弱拍で始まること)で始まるのが特徴だそうです。ガヴォットの典型的な例は「アマリリス」。その冒頭部分を演奏してもらったので、腑に落ちました。確かに主題の最初がふわりとして不思議な気持ちがします。しかし構成は緻密に計算されており、非常に均整のとれた作りになっていることも説明されました。石田さんの感想として、第13番はプレリュードでは構成をまとめるのにとても苦労したけれど、フーガはとても分かりやすく簡潔な作りになっている。この曲の様にプレリュードとフーガでバランスを取るような作りが平均律曲集のなかで多くみられ、バッハのバランス感覚の素晴らしさを感じるというまとめのコメントがありました。

 休憩時間ではお茶菓子が入口で配られました。このホールでは中で飲物を楽しむことができないので、ホワイエでコーヒーとともに頂きました。休憩時間中、ホール内の演台には、いつものようにロンドン自筆譜のコピーが置かれ、手書きの譜面にいにしえのバッハの時代を想像して、心なごみました。


後半は第Ⅰ巻の第13番嬰へ長調でした。今回は復習も兼ねて、テーマ曲の第Ⅱ巻第13番と同じ調性の第Ⅰ巻第13番を取り上げるという新しい趣向が示されました。第Ⅰ巻と第Ⅱ巻で番号が同じ曲は調性も同じで、雰囲気や音楽の方向性、性格が似ているのではないかという点、そして第Ⅰ巻と第Ⅱ巻の編纂された時期が異なり、その約20年の間にバッハの考え方や時代の変化が垣間見えるのではないかという二つの点が趣旨とのことでした。特にピアノ学習者にとってバッハは「一番初めの人」と思われがちですが、そうではなく、ルネッサンスやそれ以前からあった音楽を「私達の言葉に直してくれた人、橋渡しをしてくれた人」であり、すごく親近感を持てるし、その音楽も人間の一番根本的なところに触れるもので、決して無味乾燥的に弾かれるものではない。これから第Ⅰ巻を振り返りながら、そのような色々な話をさせて下さいというコメントが田原さんからありました。
続いて、藤山さんの演奏を交えながら、田原さんによる第Ⅰ巻第13番の解説がなされました。プレリュードでは6度離れた2声が平行に動いていますが、右手と左手のタイをずらすことにより立体的で音楽的にひらひらした感じに聴こえる効果を狙っていると思われるとのことでした。楽譜では16分の12拍子となっていますが、藤山さんが4分の4拍子的に弾いてみてくれました。そうすると16分音符のひらひらした感じがなくなってしまいます。バッハが16分の12拍子とした意図を実演で示してもらい、納得しました。また、この曲はインヴェンションのト長調の曲にとても似ていることも紹介されました。著作権などが一切なく、自他の作品のモチーフやフレーズを自作に転用することが普通だった時代だったことを考えるととても面白いというコメントがあり、私も共感しました。また、冒頭のトリルは手稿譜には無く、バッハ自身が付けたのか、後の人が付け足したのかもわからないそうです。引き続き、曲の構成について田原さんよりコメントがありました。バッハの場合、曲の構成が分からないとどうアプローチしてよいか分からず、結局弾くのを敬遠してしまうことが多く、それを習得しようというのがこのゼミナールの当初の目的だったそうです。プレリュードの場合のアプローチ方法はまずは「カデンツ(終止形)を探せ」がキーワードになり、それが分かれば、曲がどの様にできているかがよく分かるし、バッハの音楽を難しく考えすぎることを防ぐことができるとのことでした。

この曲のフーガは休符で始まっています。そして分析をしていくと、構成上休符がないと、つじつまが合わなくなることが分かるそうです。第Ⅰ巻のうち、16曲が休符で始まっています。休符が何を意味するのかを考えるのも弾く時の楽しみになるとのことでした。主題においては4度の動きが多く見られます。バッハの子供の頃はまだ4度を中心にして音楽が考えられていたと推測でき、バッハの音楽にも4度は多用されているそうです。あとこのフーガの特徴としてしっとりした主旋律に16分音符の対旋律が絡みついてくるところの美しさが指摘され、同時に実演を交えながら対旋律の弾き方の一例が解説されました。ここでも弾く時の考え方や意識の違いで聴こえる感じが随分変わってくることが分かりました。

最後は田原さんによる2曲の演奏で発表会が締めくくられました。演奏の後に田原さんは嬰へ長調は「幸せ」で輝きに満ちた調ではないかとコメントされましたが、私も聴いていてそう実感しました。この曲集の冒頭には「鍵盤音楽を学習する人のために、そして音楽を愛する人のために」と記されているそうです。バッハが音楽に込めた意図をひも解いていくこの発表会、何回か参加してみてバッハの音楽の楽しさ、そして本当の意味でのすごさが少しずつ分かってきたような気がします。この発表会に何回か出れば、自分のバッハの音楽を見る目、聴く耳がより深く、そして自由になっていることに気が付くでしょう。是非ご一緒して、バッハの時代の息吹と音楽を共有してみませんか。


次回第16回研究発表会は10月30日(木)19:00~カワイミュージックショップ仙台 4Fホールにて開催されます。

「平均律」第Ⅱ巻の第12番の研究発表と演奏が予定されています。
(次回も同一番号である第Ⅰ巻の第12番が比較対照されながら解説される予定です)

参加費 一般1,500円 学生1,000円(当日精算)

問い合わせ sendai_bachseminar@yahoo.co.jp 022-395-7280(MHKS)
 

当日は平均律第Ⅰ巻と第Ⅱ巻の楽譜を持参とのことです。
             (楽譜を持参できないときは要連絡)


広報宣伝サポートボランティア   岡

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